東京駅八重洲口の観光名所になっている東京駅一番街。その中でも行列が絶えないのが、東京の人気ラーメン店を一堂に集めた東京ラーメンストリートだ。2009年に東京駅の観光スポットの目玉としてオープンし、つけ麺が人気の「六里舎」など、入店するまで「2時間待ち」の店もあったほどだ。
だが20年4月以降コロナ禍に入り、その様相は一変。2時間待ちだった人気店も、並ばずに食べられることも珍しくなくなった。厳しかった時を過ぎて、今ではその様子も過去のものになりつつあり、東京ラーメンストリート全体では再び賑わいを取り戻しつつある。
実はその“起爆剤”となった企画が、21年7月に始まった「ご当地ラーメンチャレンジ by 東京ラーメンストリート」だ。東京に限らず、全国各地の名店を約100日ずつ期間限定で出店するもので、第7弾が終わる23年8月31日まで予定されている。実に25カ月にも及ぶ取り組みだ。
現在では第1弾の横浜・戸塚の名店「支那そばや」の出店が終わり、第2弾の熊本の名店「天外天」が2月24日まで出店している。その後は3月4日から栃木・佐野ラーメンで人気の「麺屋ようすけ」が入る予定だ。
「ご当地ラーメンチャレンジ」の開始から半年以上が過ぎた。どのような効果があったのか。東京ラーメンストリートのある東京駅一番街を運営するJR東海のグループの「東京ステーション開発」営業開発部の笠井俊亮さんにヒットの秘密を聞いた。

「支那そばや」で顧客開拓
――21年7月に「ご当地ラーメンチャレンジ」が始まり、半年以上が経(た)ちました。振り返ってみてどうですか。
連日かなり多くのお客さまに来店いただいていて、手応えを感じております。第1弾の「支那そばや」も連日行列が絶えなかったのですが、お並びのお客さまを見ていると、普段はあまり見受けられない年配のご夫婦の姿も見られました。
そのご夫婦の会話に耳を傾けてみると、「佐野さんのところだよね、懐かしいね」「ここおいしいんだよ。久々に食べられるな」という声も聞かれ、今までにない目的を持って来てくださったと思いました。これまでにない客層にも訴求できる企画になったと感じますね。
――顧客の新規開拓ができたようですね。もともとはどんな客層が多かったのでしょうか。
平日と土日でカラーが変わるんですが、平日の場合は、東京駅周辺のオフィスで働いているサラリーマンやOLの方はもちろん、食べ歩きが趣味のラーメンファンの方々が中心でした。
土日はがらっと変わり、本来の想定客層である地方から東京に観光で訪れた方や、東京駅一番街の一部で、東京ラーメンストリートに隣接するアニメやマンガのキャラクター商品を扱った店が並ぶ「東京キャラクターストリート」に行かれたあとに、お子さん連れで来るファミリー層が中心でしたね。
――それまでは東京駅に来た客層を取り込んでいたものが、今ではラーメンストリート自体が一つの目的地になりつつあるのですね。
そうですね、逆転というところまでは言い切れないのですが、支那そばやさんの時の例で言うと、ラーメンファンの方や、懐かしんで来ていただく年配の方など、総じて新しい客層の方が訪れています。結果的に東京ラーメンストリート全店の売り上げの底上げにつながっています。
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期間限定メニューを展開
――東京ラーメンストリートでは初の期間限定の取り組みが功を奏した形でしょうか。
そう思います。東京駅一番街の特徴として、イベントと一緒にPRをして、より多くのお客さまに来ていただくケースが非常に多かったんですね。例えば東京キャラクターストリートには「いちばんプラザ」というイベントスペースがあります。お菓子をテーマにした一画「東京おかしランド」にも催事スペースがあって、時期ごとにカラーを変えられる強みがあったんです。
一方、東京ラーメンストリートでは、今までこれができてこなかったんです。
――ラーメンストリートには催事スペースとなるような空間がなかったわけですね。そういう経緯から、かつてあった店舗の跡地を「ご当地ラーメンチャレンジ」のスペースとして活用したわけですね。
支那そばやさんでは約3カ月の出店期間中にも時期ごとの限定メニューを出していて、さらにうまくいったと思っています。
実は、常設店舗でも、例えば「東京駅 斑鳩」さんの「うにまぜそば」や「塩らーめん専門 ひるがお」さんの「特製背脂塩らーめん」など、期間限定メニューを展開いただくことによって、東京ラーメンストリート全体でも期間限定色を打ち出すことができ、より多くのお客さまの来店促進につながったと感じています。数字としても全体的に上がっていて、目を見張るものがありましたね。
――小売商品の場合はデパートなどでも催事として当たり前にやっていることだと思います。ただ、店舗を丸ごと期間限定にするとなると機会損失にもつながりかねず、テナント側としてもなかなか勇気がいりますね。
東京ラーメンストリートにイベントの催事区画を設けるのは当社にとっても非常にチャレンジングで、そういう意味も込めてラーメンチャレンジとうたっています。結果的にはそういうところについては本当に多くのお客さまに来館いただけたなと思います。
――リピーターの数はどうですか。
かなりありますね。店舗に伺うと、何回も足を運んでいただきましたというお声はいただいています。支那そばやさんをはじめ、限定メニューを入れていただいたので、そういった変化も楽しんで何度もお越しいただいた方も多かったと思います。今しか食べられないというところがリピートにつながっているのかもしれないですね。
――客数が増えていった実感はありますか。
並んでまで食べたいお客さまを目にすることが多くなりました。少しでも空きが出た時間帯に、そこを狙って来られるお客さまも多く、ずっと安定的な集客ができています。お店の席数は決まっているわけなので、こういうところも大きいですね。
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地方から出店 運営面の課題は?
――好調の一方で、見えてきた課題はありましたか。
店舗の入れ替え期間が1週間ほどしかないのは店舗さんにとって相当な負担だと当社も感じています。特に地方から出店するお店さんだと、慣れない新しい環境に合わせながら本来の味を出し続ける必要があります。これはかなり大変なことで、運営的な課題ですね。
特にラーメンの作り方はジャンルやお店さんごとに全く異なり、タレが先なのかスープが先なのかといったように、作り方の順番も違います。ですから、厨房のオペレーションは前の店のノウハウをあまり流用できないわけですね。
一方、フロアや店舗前の徒列のオペレーションは共通する部分も多いので、そこは上手にノウハウを活用していきたいと思います。
――第2弾は熊本の天外天でしたけど、どんな経緯があったのですか。
「ご当地ラーメンチャレンジ」は支那そばやさんのように、もとも全国的な知名度を持つお店を東京駅で味わえるというコンセプトと、天外天さんのように、熊本など地元では圧倒的に有名な一方で、まだ東京ではそこまで知られていない名店を東京や関東の人に知ってもらうコンセプト。この二軸をすごく大事にしています。
第1弾があっさり目のラーメンでしたので、第2弾は違うものということで、とんこつラーメンを考えてはいたのですが、やはり一般的には博多とんこつラーメンが圧倒的な人気と知名度があります。しかし、熊本ラーメンも博多に負けず劣らずとんこつラーメンの歴史があります。それで、東京では知名度がそこまで高くない熊本ラーメンを選んだ経緯があります。
――熊本にはラーメンの名店も数多いのですが、その中でも天外店に白羽の矢を立てたのはなぜでしょうか。
実際に熊本では天外天さんをはじめ、人気ラーメン店を何軒か自分の足で回っていました。熊本のラーメンには、とんこつに鶏ガラを入れてテイルスープに黒マー油、ニンニクチップを入れた感じが多いイメージを持っていました。その中でも、そのイメージを踏襲しながら圧倒的なインパクトと記憶に残るラーメンを出しているのが天外天さんだったんです。
見た目のインパクトがあって、ニンニクのパウダーも多くふりかかっているのに、スープの後味がスッキリしているんですね。でもニンニクのパウダーの量は確かに多いので、口の中には残ります。
ただこれが不思議と、食べるとすぐ馴染んでしまって、ずるずるずるずるいけるんです(笑)。この独特な味に没頭できるのが天外天さんのラーメンなのです。東京では食べたことのない味だと感じました。
――続いて第3弾は栃木県の「麺屋ようすけ」になりますね。栃木県の代表的なラーメンといえば佐野ラーメンで、第1弾の支那そばやのように、あっさりした感じが特徴です。
3月4日からは第3弾としてこちらも東京初出店の栃木「麺屋ようすけ」がバトンをつないでいきます。「つるしこ」でコシのある麺も素晴らしいですし、その麺に合わせるスープも豚をメインに鶏、牛の動物系と羅臼昆布を使用することで、あっさりだけではなくコク深い分厚いスープに仕上げています。
今後も全国のご当地ラーメンを約100日ずつ、第7弾まで展開する予定です。皆さんが知っている超有名店もあれば、知る人ぞ知る名店もあります。ラーメンファンからすると、「次何があるんだろう」と想像できるのも楽しみの一つだと思います。
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「仕事で食べに行けていいよね」に反論
――第7弾まで、もうお店は決めているのですか。
ラーメンストリートに出店いただいている「せたが屋」の前島司代表とも相談して進めています。どういうメンバーでどういう構成でいこうという大枠は決まっています。第何弾はこういうラーメンでいこうというコンセプトまでは出来上がっているのですが、具体的にどこの店舗さんに出店いただけるかまでは、全てが確定しているわけではないですね。
――実際にお店を決める際に、笠井さんはお店に足を運んで実際に食べて、そのおもてなしや佇(たたず)まいも見ながら決めるそうですね。
東京ラーメンストリートだけでなく、ラーメン以外の東京駅一番街の飲食店街である「にっぽん、グルメ街道」の店舗決めにも僕は携わっているのですが、コンサル会社さんに入ってもらって提案された店から選ぶ形はとっていません。自分たちの足で各地の名店を訪ねて、直接交渉するスタイルなのです。どれも、東京駅を訪れるお客さまにとって、触れたことがなかったり、新しい出会いになったりするお店選びを意識していますね。
――どういった基準でお店を決めているのでしょうか。
東京駅という特別な場所で商業施設を営んでいるので、どこの商業施設にも入っているようなお店があってもあまり魅力がないと考えています。例えば広島のお好み焼きのお店を入れたいと思ったら、広島に行く前に事前に5〜6店舗に候補を絞り込んでおきます。
その候補に1日2日の滞在期間で出張を組んで足を運びます。現地に行ったら、お店で身分を明かさずに実際に食べたり、お店の様子を見たりするだけでなく、タクシーの運転手や街の人など、地元の人の評判も聞きながら、候補を絞り込んでいきます。
――2日間で6食同じものを食べるとなると、3食同じものを2日間食べ続けるわけですよね。
「仕事で食べに行けていいよね」みたいなことを周りから言われるのですが、実際は大変ですよ(笑)。これは「にっぽん、グルメ街道」のお店を決めた時の話なのですが、1回の取材で鹿児島の黒豚を使ったとんかつと、博多のもつ鍋、そして広島のお好み焼きの3店を「にっぽん、グルメ街道」に入れたいと思い、一度に取材しに行ったことがありました。
その時は初日に鹿児島に行ってとんかつを3軒4軒食べたあと、その日の夜に福岡に入ってもつ鍋を食べて、その日は一泊。次の日の朝はホテルの朝食を抜きつつ、ランチでもつ鍋を提供しているお店で食べて、その足で広島入り。現地に着いたら広島のお好み焼き店を4軒回って、それで4時間かけて新幹線で東京に帰ってきました。
――すると、1日で5〜6食は食べている計算になりますね。どういった点を見ながら食事をしているのでしょうか。
一番考えるのは、東京駅一番街としてどんなお客さまが来てくれて、どんなお客さまが喜びそうかなという点ですね。料理そのもののおいしさはもちろんなんですけど、記憶に残るものかどうかも見ています。
食べてただおいしかっただけでなく、思い出に残るようなところですね。これは、そのお店のおもてなしも含めてになります。
東京駅一番街ですと、もしかしたら地方から出てきて最初に会う人がそのお店の店員かもしれないわけです。そういうところで料理や接客で記憶に残るところがあれば、そのお客さまにとって生涯忘れられない思い出になるかもしれません。このように何か食べるだけではなくて、付加価値がついて思い出に残るかどうかも意識しています。
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結果責任を伴うプレッシャー
――仕事で食べに行く以上、プレッシャーもありそうですね。
食べ歩きと違って、あくまで会社の仕事として行くわけですから、リストアップした5、6軒にいいところがなかったから「やはり違うお店にします」というわけにはなかなかいきません。
ですから、リストアップの段階でもかなり入念な調査をしていますし、収支計画まで頭に入れながら候補を選んでいきます。僕自身食べ歩きも趣味なんですが、絞り込んだ5、6軒の中から結果を残さなきゃいけないプレッシャーは常にありますね。
――「ご当地ラーメンチャレンジ」のお店選びの時にも同じようなことを意識しているわけですね。
そうです。東京駅一番街を訪れたお客さまに、思い出を持って帰っていただくのが私の仕事の一つでもありますから、単においしいかどうかだけでなく、おもてなしや接客も含め、食べた後の食後感もすごく大事にしています。ですから、天外天に決めた経緯もあります。
第3弾以降もこの基準は変わりませんので、楽しんで食べにいらしてくださるとうれしいです。
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からの記事と詳細 ( JR東海グループが仕掛ける催事戦略 東京ラーメンストリートに行列絶えぬ理由 - ITmedia )
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