初めてCMソングの依頼を受けた若手作曲家は夕方の新宿で帰りのバスを待っていた。今までにない曲を作りたいと知恵を絞っていた
▼大勢の女性が歩いていく光景が目に入ったそうだ。ながめているとこんなフレーズが浮かんできた。「ワンサカ、ワンサカ」
▼作曲家とは小林亜星さん。六千を超えるCM曲を世に送り出した小林さんの出世作となったレナウンの「ワンサカ娘」(一九六一年)である
▼亜星さんの最初の歌詞は<銀座並木に春が来りゃ><片瀬の海に夏が来りゃ><志賀高原に秋が来りゃ>だったが、それぞれ、「ドライブウエイ」「プールサイド」「テニスコート」に改めた。高度成長期のモータリゼーションやレジャーブームを先取りした歌詞と底抜けに明るいメロディーが時代にマッチした。CMは大ヒットし、レナウンは急速に業績を伸ばした
▼歌から約六十年。再びの「春が来りゃ」はなかったか。レナウンが東京地裁に民事再生法の適用を申請した。アラン・ドロンの「ダーバン」や会社員愛用の靴下「通勤快足」を思いだす人もいるだろう。日本の元気な時代を彩った老舗アパレルの経営破綻にため息が出る
▼九〇年代以降の販売低迷に加え、新型コロナウイルスが大打撃となった。主力販路だった百貨店が営業を自粛しては苦しかっただろう。取り戻せなかった「ワンサカ、ワンサカ」。寂しい。
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May 16, 2020 at 01:01PM
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