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Thursday, October 19, 2023

PLAY! MUSEUMがオープン3年 草刈大介プロデューサーに聞く ... - 読売新聞社

数多い東京の美術館の中でも、独特の存在感を示す「PLAY! MUSEUM」(※1)が立川の地でスタートして今年で3年になります。絵本やアニメーション、テキスタイルなどの親しみやすいテーマを中心に据えつつ、独自の視点や大胆なディスプレイで見る人を惹きつけるユニークな展覧会を次々に開催、しっかりファンをつかんでいます。同館の企画・運営をリードする草刈大介プロデューサーにこの3年を振り返ってもらいました。(聞き手・美術展ナビ編集班 岡部匡志)

草刈大介さん

草刈大介さん 朝日新聞社を経て、2015年に展覧会企画や書籍出版を行う株式会社「ブルーシープ」を設立して代表に。PLAY! MUSEUMのプロデューサーとして展覧会、書籍のプロデュース、美術館や施設の企画・運営などを手掛けている。

ゼロからのスタート、かえって良かった

Q PLAY!  MUSEUMが、立川駅の北口に完成したばかりの新街区「GREEN SPRINGS」(※2)内でスタートしたのは2020年6月。コロナ禍にまともに飛び込むようなタイミングでの船出になりました。

A 注目を集める新街区の中にあり、コロナ禍がなければ最初は物珍しさから大勢のお客さまが訪れて、「PLAY!」にもどんどん寄ってくれたでしょう。しかしそれは一種の上げ底で、何年かすればそういうお客様がいなくなり、そこで初めて自分たちの素の状態、キャパシティに向き合うことになります。コロナ禍の最中で、実質的にはゼロからのスタートでもちろん大変でしたが、最初から自分たちの等身大の姿を知ったことは、むしろ良かったです。

新街区「GREEN SPRINGS」の2階にある「PLAY! MUSEUM」。正面奥が同美術館の建物。右奥は多機能ホールの「TACHIKAWA STAGE GARDEN」。周囲は、立川駅近くの大型施設内とは思えないほど、緑と水が豊かな空間が広がります。

「もっと世の中の役に立ちたい」と独立

Q 草刈さんといえば、朝日新聞社の展覧会事業の担当者として「ミッフィー展」「機動戦士ガンダム展」「マウリッツハイス美術館展」(※3)など様々なジャンルで注目を集める展覧会を企画。ヒットを飛ばす敏腕として業界では知られていました。どうして独立しようと思ったのですか。

A 長く仕事を続けているうちに、展覧会の新しい企画や今まで聞いたことがないようなアイデアについて相談を受ける機会が増えました。しかし会社という組織は既存のフォーマットに沿って仕事を進めることが優先されるので、せっかくの面白い提案も断らなければならないことが多く、「自分は世の中の役に立っていないな」と思うようになりました。それまでは会社の利益と、自分のやりがいと、展覧会に足を運んでくれる人の喜び、という3つの要素がバランスよく成り立っていたのですが、会社という枠にとらわれないほうが、もっと社会に対して貢献できると思ったわけです。美術館を作るなんてことは会社の枠にははまらないことだったから、もしそのまま会社員を続けていたら、PLAY!は誕生しなかったんです。

現在、開催中の「鹿児島陸 まいにち」展。入念に考えられた展示も人気の秘密。

責任の重いミュージアムの運営

Q ひとつのミュージアムの運営に責任を持つのは大変ですよね。

A 民間の施設なので、まず事業を継続する責任があります。年間に一定以上の入場者に来場してもらい、ショップやカフェを利用してもらえるよう、魅力のあるプログラムを考えなければいけません。公立の施設でももちろん、入場者の目標はあるでしょうし、管理者への説明責任を負う厳しさは同じだとおもいますが、施設が無くなってしまうかも、という恐れはあまりないと思います。「PLAY!」では現在、7~80人のスタッフが働いており、関連会社など含めれば数百人が関わっています。ひとりで責任をすべて背負っているわけではありませんが、やはり経営の問題はシビアです。ただ、ミュージアムに投資している会社はとても理解があり、同じビジョンを共有しているので、ネガティブになったことはないです。

エポックになった「どうぶつかいぎ展」

Q これまでに開催した展覧会で、「これはよかった」と思ったものを挙げていただけますか。

A 常に最新の展覧会が一番だ、という思いはあります。以前に手がけたものの経験を踏まえ、より良いものを提供していると考えていますが、エポックになったものはあって、「どうぶつかいぎ展」(2022年2月~4月)の経験は重要でした。

動物を描いた鴻池朋子さんの作品や、junaidaさんのメッセージの明確なポスターが印象的だった「どうぶつかいぎ展」(PLAY! MUSEUMで、2022年2月4日の内覧会)

Q エーリヒ・ケストナーの名作『動物会議』を主題にしたユニークな展覧会でした。第一線で活躍するアーティストの方々が、それぞれ与えられた場面を再解釈し、自由に創作していました。

A 既存のストーリーをただ紹介する、というのではなく、それまで無かったものを作るという展覧会でした。挑戦的な企画だったと思います。『動物会議』は戦争や平和、社会の分断といった大きなテーマを内包していますし、それをどう解釈するかはアーティストに委ねたのですが、展覧会として表現の幅が広がりましたし、お客さんも入ってくれました。二次創作の展覧会を行う自信になりました。もうひとつ印象に残ったことは、子どもたちの反応が良かったことです。

「大人が考えるこども向け」はやらない

Q そうだったのですね。元のモチーフになった『動物会議』は寓話的ですし、二次創作された現代アーティストの作品も割と難解かも、と感じました。子どもたちの反応がよかったとはちょっと意外です。

A 常連のように親子で何度も来てくれている子どもたちがいますが、「面白かった」「よかった」という声が少なからず聞こえてきました。

「PLAY! MUSEUM」の展覧会ではキャプションなどの作品解説はほとんどないことが多いです(どうぶつかいぎ展、の展示から)

Q 何がよかったのでしょう。

A PLAY!は「大人も子どもも楽しめる美術館」をモットーにしていますが、「子ども向けの美術館」ではないのです。作品を子どもが見やすい低い場所に設置しているわけでもないですし、ゲームみたいな仕掛けもやりません。キャプションであれこれ説明もしません。というのも、子どもは美術館に「義務的に連れて来られる」存在ですから。率先して美術館に行きたい、という子はほとんどいないでしょう。義務的に連れてこられた中で「美術館って面白いな」と思う子は10人に1人ぐらいなものだと思います。みんながアートを面白いと思う必要もないですし、その10分の1の存在のために、美術館の展示をあえて子ども向きに変えるのはナンセンスだと考えてきました。

美術館で絵を見るって本来、自分で面白さを見つけていくものです。「この絵は何が書いてあるんだろう」「なんで僕はこの絵が面白いと思うのだろう」などと自分で課題やテーマを見つけて考えていくから楽しくなってきます。「どうぶつかいぎ展」のような抽象度が高い展示でも、ちゃんと面白がってくれる子どもはいる、ということは自信になりました。大人が考えるような子ども向けの展示はしない、という方針も明確になりました。

グッズやカフェも工夫を凝らしています。人気を集めた「エルマーのぼうけん」展のグッズの数々。

大胆に新しいテーマに取り組んでいきます

Q 常に新機軸が見られる美術館。次はいったどんな展覧会を開くのだろう、と期待しているファンも多いと思います。

A これまでも年に4本程度の企画展を開催していますが、今後は年に一つ、大きなテーマ展も開催しようかと計画中です。来年は「おばけ」、次の年は「どろぼう」というテーマを考えています。

Q テーマを聞いただけでもワクワクしてきますね。

A 「おばけ」も「どろぼう」も子ども向けのお話で大変に人気のモチーフですが、なぜ好まれるのか、と考えると不思議ですよね。「どろぼう」は一般的には悪い人ですけど、勧善懲悪の対象として出てくるわけでもないですし。そういった難解なウラのテーマも含みつつ、結果的に大人も子どもも目が開かれた、という体験ができるような展覧会を考えています。

またこれまでは絵本や漫画、アートなどを主に取り上げてきましたが、博物館的な領域にもチャレンジする予定です。「そんなテーマをPLAY!でやるのか?」と驚かすようなものも登場すると思います。ご期待ください。

既成概念の更新 美術館の責任

Q 現状の日本のアートシーンについてはどう受け止めていますか。

A 新しいことにチャレンジしよう、という前向きな姿勢があまり感じられません。今の日本の社会全体に言えることだと思います。私たちは、先人たちが少しづつ積み上げてきた変革の成果の上で、今のような便利な暮らしができるようになりました。私たちも少しでも今までと違う何かを創り上げ、既成概念を更新していく責任があります。

PLAY!は「うちはこういう美術館ですよ」という枠をはめずに、常に新しい価値を作っていきたいと考えています。ぜひ、足を運んでみてください。

(※1)「PLAY! MUSEUM」・・2020年6月に複合文化施設「PLAY!」の美術館としてオープン。「PLAY!」は「PLAY! MUSEUM」と子どものための屋内広場「PLAY! PARK」から構成されています。これまでに「エリック・カール 遊ぶための本」、「がまくんとかえるくん」、「みみをすますように 酒井駒子展」、「ミッフィー展」、「ぐりとぐら しあわせの本」展、「クマのプーさん」展などを開催しています。

(※2)「GREEN SPRINGS」・・立川駅北口から徒歩約8分。在日米軍立川基地跡地の国営昭和記念東側に立地。立川ステージガーデンやソラノホテル、商業施設、オフィスなどから構成される複合施設。

(※3)マウリッツハイス美術館展・・2012年から13年にかけて、東京都美術館と神戸市立博物館で開催。フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」が来日し、大いに話題となりました。計134万人が美術館を訪れました。

(おわり)

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