Pages

Sunday, November 26, 2023

みんなで助かるために 発達障害がある人と災害 - 記事 - 明日をまもるナビ - nhk.or.jp

発達障害や精神障害がある人たちが孤立する状況を変えていくために。「災害時にどんなことに困るのか」「みんなで助かるためにそれぞれにできること」という2つのポイントで見ていきます。

「避難所には行けない」と孤立を余儀なくされるケースも
「避難所には行けない」と孤立を余儀なくされるケースも

災害時、どんな困難に直面したか

■倉敷市真備町では…

岡山県倉敷市にある、発達障害などがある人の保護者に向けた「うさぎカフェ」。障害に関する情報交換や、互いの思いを共有する場になっています。
運営は、支援団体の「ペアレント・サポートすてっぷ」。理事長の安藤希代子(あんどう・きよこ)さんにも、発達障害などがある子どもがいます。

うさぎカフェ

2018年の西日本豪雨。関連死を含め、死者・行方不明者は300人を超えました。なかでも甚大な被害があったのが、カフェから15キロほど離れた倉敷市真備町(まびちょう)です。地区の3分の1が浸水しました。

浸水した倉敷市真備町
浸水した倉敷市真備町

安藤さんが支援に入る知り合いに、障害がある子どもと家族の状況を教えてほしいと頼んだところ、届いた報告は「いろいろ見たけど見当たらない」「障害児がいない」でした。

その後、SNSで「真備町の近くで臨時のカフェを開く」と呼びかけると、4日間で35人の親子がやってきました。皆、避難所には行っておらず、親戚の家を転々としたり、車の中で生活したりしていました。集まった人たちは「避難所は最初から選択肢になかった」といいます。

安藤さんたちが開いた臨時の支援カフェ
安藤さんたちが開いた臨時の支援カフェ

「皆が集まる場に行って自分の子だけ浮いてしまったとか、大きい声を出してその場にいられなくなったという経験の積み重ねがあるので、大勢の人が集まる体育館や公的な避難所に行って、うちの子がどうなるかは行くまでもなく想像がつくので行かない」(安藤さん)

■熊本地震の被災地では…

2016年、震度7の揺れが2度にわたって襲った熊本地震でも、避難所に行くのではなく、車中泊を選ぶ人が多くいました。

精神障害当事者会が開いた防災ワークショップで、当時の経験を発達障害のある人などが振り返ったところ、「慣れない環境下でパニックになった」「ルーティンが崩れてつらかった」などの体験談が聞かれました。

ワークショップで当事者の体験を聞く

避難所には行けない」という声も多く、その理由は…

「仕切りがあろうと、結局足音はするし、音は聞こえる。そんなのじゃだめですからいられない」(精神障害がある50代の女性)
「たぶん避難所に行ったらガヤガヤして、薬があっても絶対寝られないし不安」(発達障害と精神障害がある40代の男性)


「見えない障害」が直面する、周囲の“無理解”

発達障害や精神障害などは、一見、障害があることが分かりにくいために「見えない障害」とも指摘されます。

九州大学教授(発達臨床心理学)の田中真理さんに、「発達障害とはどんなものか」を聞きました。

九州大学教授(発達臨床心理学)の田中真理さん
九州大学教授(発達臨床心理学)の田中真理さん

「発達障害」は、幼少期から現れる脳機能の障害で、考えたり、情報を処理したり、記憶したりという脳機能のタイプが異なることで、日常生活に支障を来している状態です。

いくつかに分類され、診断名の主なものには、「自閉スペクトラム症」「注意欠如多動症(ADHD)」、学習障害という言葉で知られる「限局性学習症」などがあります。

自閉スペクトラム症

対人関係が苦手だったり、こだわりが強かったり、情況の変化に心が乱れやすかったり。感覚の過敏さなどの特性も。

注意欠如多動症(ADHD)

多動、落ち着きのなさ、衝動性が高いなどが挙げられる。

「“障害と性格の線引きがどこにあるのか”はよく言われます。脳の働きのタイプが異なることだけでは発達障害は定義されません。そこにプラスして社会生活や学校生活を送る上で支障が出ているかどうかで判断されます。発達障害を持つ人の特性は非常に多様で、グラデーションもあります。重要なのは、障害のわかりにくさから来る周囲の無理解が、当事者を追い詰めることにつながることです」(九州大学・田中さん)


災害時「周囲に理解されない」

発達障害当事者でつくる団体「凸凹ライフデザイン」の理事長をつとめる相良真央さんは、熊本地震が起きた直後、避難所で相談活動を行いました。

避難所で行われた相談活動

相良さんも発達障害などがある当事者。特に、光や色から受ける視覚のストレスが大きいといいます。
大勢の人のざわめき、におい、日ざしに加え、白い紙から受ける刺激で体調を崩しました。

ざわめき、におい、日ざしのイメージ図

相良真央さんと、熊本のワークショップを主催した「精神障害当事者会ポルケ」で代表理事を務める山田悠平さんに話を伺いました。

相良真央さんと山田悠平さん
相良真央さんと山田悠平さん

■災害時、発達障害のある人が直面した壁は?

相良さん 避難所でエコノミークラス症候群の予防のためにと、大音量で音楽を流して、体操が始まったんです。その音にびっくりしてしまい、ワーッと体育館の隅に逃げたり、その場で耳をふさいでうずくまったりする人がいました。私自身は感覚過敏はあっても、耳は割と大丈夫な方ですが、それでも心拍数が上がっちゃいました。

例えば「5分後に体操を始めます」といったアナウンスがあれば、その間は外に出ておこうとか、壁際に寄っておこうといった対策ができたと思います。

■「不公平」「わがまま」と非難の目にさらされたケースも

九州大学教授(発達臨床心理学)の田中真理さんは、東日本大震災の時に、発達障害がある人がどんな困難に直面したか、調査しました。

田中教授 「感覚過敏」で言うと、避難所のざわつきに耐えられずに、体育館のステージのカーテンの裏のスペースを使っていたところ、「不公平」「ずるい」という声が挙がったケースがありました。

「感覚過敏」体育館のざわつきが耐えられない。ステージのカーテン裏のスペース使用

田中教授 白米にこだわりのある発達障害の子どもが、避難所で配られたおにぎりにふりかけがかかっていて、それで食べられずにパニックになった。それに対して「こんな状況の中でもふりかけのことに文句を言うなんて、なんとわがままな」というような、非難の目にさらされたケースもありました。

「こだわり」白米にこだわり、ふりかけおにぎりでパニックに

山田さん そんな時だから「好みなんか言わないでがまんして食べなさい」と言っちゃう人もいるのですが、当人からしたら本当に食べられない。

田中教授 事前に、ふりかけをかけないおにぎりをこの子には配るとか、朝のものを残して、お昼、みんながおにぎりを食べている時に朝の残りを出すという工夫など、前もってできることもあるかと思います。

田中真理教授と塚原愛アナウンサー
田中真理教授と塚原愛アナウンサー

■避難所から追い出されたという話も

山田さん 東日本大震災を経験した精神障害の人からは、避難所から追い出されたといった話も出ています。何かをしでかした、迷惑かけたわけではないようなんですね。“そういう人だったら来ないで”、というのが実際にあるのは本当に驚きでした。

障害者差別解消法にもあるように、具体的にできることや、やれないことを対話の中で育んでいきながら、できることをやっていこうというのが今のスタンダード。始めから“だめ”になっちゃうと、その「合理的配慮」を巡る対応自体もできず、大きな問題ですね。

参考:「合理的配慮」について
内閣府 リーフレット「合理的配慮を知っていますか?」
※NHKサイトを離れます
「合理的配慮の提供」とは?(明日をまもるナビ)

■安心して自分のことを言える環境を

Q 今後どうなっていけばうれしいですか?

相良さん 例えば今日みたいなこうやって、私の話をちゃんと聞いて受け止めてくれて、それに対して答えていただけるなという安心感があれば話せるんですよね。

山田さん もっといろいろな地域や機会にこういったことをお伝えできることが増えてくるといいなと思いました。さまざまな多様性の理解だとか、逆にチャンスだと思うんですね。いろいろな方のお知恵や力も借りたいと思っているので。

田中教授 障害者権利条約には、“Nothing About us without us”=私たち抜きに私たちのことを決めないでという大きな理念があります。「安心・安全」って人間の尊厳を守る一番基本なものだと思うんですね。安心して自分のことを言える、そういう環境とか社会の大切さを改めて感じました。

相良さんと山田さん


みんなが共に助かるためのヒント

みんなで助かるためにそれぞれにできることは何か。
キーワードは「日常からの関係性」です。ヒントとなるケースを紹介します。

■当事者とともにつくる「かがやき手帳」

岡山県倉敷市で、発達障害などがある人の保護者のために居場所を作ってきた「ペアレント・サポートすてっぷ」の安藤希代子さんは、福祉関係者や市の防災担当者とも協力し、「かがやき手帳(成人期版)」を開発しました。

かがやき手帳(成人期版)

「日常生活でどんな支援を必要としているか」などの項目に加え、「災害時、避難先としてどこがあるか」、「災害時でも大事にしたいことは何か」などを書き、周りと共有するというものです。

項目ごとのチェックシート

障害のある人の就労支援を行う佐藤将一さんは、これまでにかかわった障害のある人たちの手帳を、今後、共に作っていく予定です。話し合いながら、チェックシートに記入しています。

チェックシートを確認する佐藤さん

「自分のことを人に話すのが今までできなかったので、困ってもひとりでどうにかしなきゃという気持ちが強かったですけど、助けてほしい時に“助けて”と言えるきっかけになると思う」(発達障害がある女性)

11月上旬、福祉関係者に向けて手帳の作り方に関する勉強会が開かれ、手帳を作る「過程」の大事さが伝えられました。
「本人が一人で単独で書くというよりは、支援者の人と相談しながら書き上げていくもの」(すてっぷ・安藤さん)

手帳づくりの勉強会
手帳づくりの勉強会

「『発信』『理解し合う』『受け入れる』という3つができるツールです」(倉敷市防災推進課 高槻直樹主任)

安藤さんたちはこの手帳をきっかけに、当事者を理解し支える人を増やしていけたらと考えています。

■対等な立場で支援活動に参加

「熊本県発達障害当事者会リルビット」の共同代表理事を務める、須藤雫(すどう・しずく)さん。熊本地震の際、発達障害者の居場所を作ろうと、アパートの部屋を借りるために家主のもとを訪れた日、「住民から反対された」と突然断られました。

そうしたなか、忘れられない経験がありました。知り合いから声をかけられ、困窮者支援や子ども支援を行う人たちで作られる混成チームに、発達障害がある仲間と参加したのです。
障害のある人もない人も一緒になって、夜まわりや車中泊調査などを行いました。

“困窮者支援”“子ども支援”各団体と共に活動

「この人はこういう人だねとか、あの人はああいう人だねと分けたりすることなく、いろんな人が対等に、一緒に熊本地震の復興を目指す仲間として共に活動していた」(須藤さん)

その時、活動仲間からかけられた「頑張っているね」という言葉が、須藤さんたちの心に響きました。

「頑張っているね、と認めてもらえることって本当に貴重な経験で、自分でも役に立てるんだということが本当に次の生活につながっていくというか、また頑張ろうかなと思うきっかけになった」(須藤さん)

“須藤雫さん

この体験を通じて安心できたからこそ、特性のことを話せたといいます。
活動で得た関係性は、現在にもつながっています。

須藤さんも当事者として参加した防災ワークショップに、混成チームで一緒に活動した男性も訪れていました。男性は、発達障害がある人たちの活躍を振り返った上で、こう話しました。
「ネットワークを日頃から協力しながら作っていくのが大事かなと」

“須藤さんらと一緒に活動した男性

このワークショップでも、障害のある人、支援者、その友人など、多様な人たちで、一緒に対策を考えました。

みんなで助かるために。かかわりから生まれる「理解」が、備えに大きな役割を果たしています。


「どうした?」 日常からの関係づくりが大切

九州大学教授の田中真理さんは、かかわりの大切さを強調します。

「日常でかかわることでしか理解は深まらない。知ると、気付きが生まれる。気付きが生まれると理解が深まる。理解が深まると共感が生まれる。共感すると次にまた知りたいと思う。“何か困っていることない?” “私にできることある?”が次の気付きにつながり、この平常時のループが非常時にみんなで助かるためにつながるのではないか」(田中さん)

九州大学教授(発達臨床心理学)の田中真理さん
九州大学教授(発達臨床心理学)の田中真理さん

それを現実にしていく場合には、具体的に何をしていけばいいのか。
田中さんは「日常からの関係性ができるような地域活動」が重要だといいます。

「地域の防災訓練の中に、その地域の中に住んでいる障害児・障害者も一緒にやるシステムを作る。知る、気付く、理解、共感のループを作っていくことに重要性を感じています」(田中さん)

■かかわりの一歩目 よい言葉は?

『どうした?』と投げかける言葉が重要と思っています。
それが“あなたの話を聞きますよ”というメッセージになります。日常からの“共に生きていく”という感覚が、非常時のみんなで助かるための力を作っていくと思います」(田中さん)

この記事は、明日をまもるナビ「みんなで助かるために 発達障害がある人と災害」(2023年11月26日 NHK総合テレビ放送)の内容をもとに制作しました。

こちらの記事や動画もあわせてチェック
身体に障害のある人たちの避難 :壁を取りのぞく には
個別避難計画 :高齢者や支援を必要とする人たちの 備え
外国人の避難 :多言語や多文化に対応 した支援
NHK防災・命と暮らしを守るポータルサイト
NHK防災・命と暮らしを守るポータルサイト

Adblock test (Why?)


からの記事と詳細 ( みんなで助かるために 発達障害がある人と災害 - 記事 - 明日をまもるナビ - nhk.or.jp )
https://ift.tt/Shfqnkp

No comments:

Post a Comment