Pages

Sunday, January 16, 2022

「今までにない津波」 不安な夜、避難に迷い トンガ海底火山噴火 - 毎日新聞 - 毎日新聞

岩手県沿岸の大船渡湾を一望できる高台の赤崎地区公民館に避難した家族連れら=岩手県大船渡市赤崎町で2022年1月16日午前7時2分、中尾卓英撮影 拡大
岩手県沿岸の大船渡湾を一望できる高台の赤崎地区公民館に避難した家族連れら=岩手県大船渡市赤崎町で2022年1月16日午前7時2分、中尾卓英撮影

 16日未明に発表された津波警報と津波注意報で、日本各地の沿岸部は一時、緊迫した状況に直面した。遠く離れた南太平洋のトンガ沖の海底火山噴火で、日本各地の海でも1メートル前後の潮位変化を観測。船が転覆・沈没する被害も起きた。海の近くで暮らす人々は高台に避難し、不安な夜を過ごした。津波の危険を知らせる急報は各地にどのような影響を残したのだろうか。

 一時は津波警報が発表された岩手県。沿岸12市町村で約1万4500世帯、約3万人に避難指示が出された。県によると、避難所約90カ所が開設され、一時1300人超が避難した。

 大船渡市の赤崎地区公民館には午前5時時点で43人が避難し、駐車場に止めた車の中で過ごす人も。2011年3月の東日本大震災で自宅が半壊した志田武さん(70)は、91歳の母や13歳の孫ら家族7人で高台の公民館に避難した。1960年のチリ地震の津波では母親らに手を引かれて裏山に逃げた記憶があり、「警報が出る前に高台避難をすることは三陸沿岸に暮らす者の務め」と語った。

 1・1メートルの津波が到達した久慈市の避難所では、警報の解除を待たずに帰った住民も。60代の女性は「薬を飲み忘れた。避難している人も少ないので一旦帰宅する」と話した。隣接する野田村の50代女性は家族で自宅にとどまった。「深夜でもあり避難の決心がつかなかった。震災でも自宅は浸水しなかったので今回も大丈夫だと思った。最初から警報だったら、危機感は違ったかもしれない」と話した。

津波警報などの影響で、大学入学共通テストの2日目が中止となったことを知らせる紙が張られた岩手県立大学宮古短期大学部の試験会場=岩手県宮古市で2022年1月16日、和田大典撮影 拡大
津波警報などの影響で、大学入学共通テストの2日目が中止となったことを知らせる紙が張られた岩手県立大学宮古短期大学部の試験会場=岩手県宮古市で2022年1月16日、和田大典撮影

 昨年12月に内閣府が発表した日本海溝地震と千島海溝地震の被害想定で最大13万7000人の死者が出るとされた北海道でも、避難する人が相次いだ。浜中町霧多布地区の会社の寮で寝ていた熊川僚太さん(35)は、町が避難を呼びかける防災無線で東日本大震災の大津波が脳裏をよぎり、車に飛び乗った。「寮は防潮堤の外側にある。逃げないといけない」。高台にある町ふれあい交流・保養センターの駐車場に入り、車中で不安な一夜を過ごした。

 東日本大震災で甚大な被害を受けた宮城県石巻市では、半島部の高台に震災後に自宅を再建した高橋守次さん(75)が、警戒しながら一夜を明かした。双眼鏡をのぞくと、海面の水位が上昇しているのが分かったという。「チリ地震など津波ばかり経験してきたが、今回は今までにない津波。用心しないと。噴火は1回で終わらないかもしれず今後も十分気をつけたい」

【中尾卓英、松本ゆう雅、本間浩昭、百武信幸】

九州沖縄で2人負傷

 九州・沖縄の各地では多数の人が避難し、不安な一夜を過ごした。浸水など目立った被害は確認されなかったが、避難途中で2人が転倒し軽いけがをした。

 鹿児島県奄美市では2万3689世帯、4万2163人に避難指示が出され、市によると市役所に一時約300人が避難し、車が渋滞するなどした。市内の女性(100)が避難時に自宅近くで転倒し頭を打つけがをした。県内全体では奄美群島やトカラ列島などを中心に10市町村で4万9338世帯、8万9000人に一時避難指示が出された。

 宮崎県では日向市の沿岸近くの住民に避難指示が出された。沖縄県では避難指示は出なかったが、那覇市など6市町村で最大45世帯222人が避難。避難の最中に糸満市の80代男性が転倒して頭を打つけがをした。【蓬田正志、吉住遊】

「怖くて眠れず」警報発令の奄美大島

 鹿児島県・奄美大島では15日午後11時55分に高さ1・2メートルの津波を観測した。自治体が高台に避難するよう住民に呼びかけたが、車の渋滞が発生するなどした。奄美市名瀬の西田富美子さん(67)は東日本大震災の映像が頭をよぎり、「1人暮らしで不安で仕方がなかった」。すぐに避難しようとしたが、道路は高台に向かう車で渋滞。車を道路脇に止め、警報が注意報に切り替わった16日朝まで車中で過ごした。「暗くて怖くて眠れなかった」

鹿児島県・奄美大島で、高台に避難し路上駐車する車の列=鹿児島県奄美市で2022年1月16日午前3時26分(画像の一部を加工しています) 拡大
鹿児島県・奄美大島で、高台に避難し路上駐車する車の列=鹿児島県奄美市で2022年1月16日午前3時26分(画像の一部を加工しています)

 自宅が奄美市名瀬の長浜港近くにある前川順英さん(62)も、警報発表後に夫婦で近くの福祉施設を目指した。施設敷地内に多くの車が避難し、道路にも車があふれていたという。前川さんらは道路脇に車を止めて約7時間寒さに耐えたといい、「車中ではラジオからの情報を聞きながら過ごした。うとうとしたが眠れず、きつかった。火山の噴火でこんな影響があるとは」と声を震わせた。

 同市の小湊町内会の栄嘉弘会長(67)は、ニュースや市の防災無線で津波警報を知った。近所の住民に避難するよう声を掛け、自身も近くの山に避難した。暗闇の中、不安いっぱいだったといい「地震はないのに津波が来るのか、と半信半疑だったが、住民への声掛けなど考えることが多かった」と話した。【神田和明】

近畿、四国は冷静に対応

 南海トラフ巨大地震で被害が想定される和歌山、徳島、高知各県にも津波注意報が出され、避難した人もいた。船が転覆するなどの物的被害はあったが、けが人はなく、各自治体は冷静に対応した。

 毎日新聞の取材によると、和歌山県内では那智勝浦町で5世帯21人が近くの小中学校に自主避難。車の中で夜を明かし、16日午前には帰宅したという。串本町では8人が高台にある町消防防災センターに身を寄せたほか、御坊市で2人、すさみ町で1人が一時避難するなどした。

 高知県内では16日未明に香南市に避難所が設けられ、一時2人が自主避難したほか、県安芸総合庁舎にも1人が自主避難した。南国市の沿岸部の一部には避難指示が出されたが、県の担当者は「情報収集を急いだが、津波注意報が長時間続いたため海のそばに近づけず、現場に行くのに苦労した」と話した。

 徳島県によると、16日午前2時半ごろ、避難指示が出された阿南市で計10カ所の避難所が開設され、一時3世帯6人が避難した。県の担当者は「(津波注意報の発表で)すぐに登庁する態勢を取っており、今回も想定通り対応できた」と振り返った。【山本芳博、竹内之浩、小林理、国本ようこ】

Adblock test (Why?)


からの記事と詳細 ( 「今までにない津波」 不安な夜、避難に迷い トンガ海底火山噴火 - 毎日新聞 - 毎日新聞 )
https://ift.tt/33FgeZM

No comments:

Post a Comment