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Monday, March 21, 2022

Hondaの「藻」の可能性に迫る!電動化だけではないカーボンニュートラルへの道 | Honda Stories | Honda公式サイト - honda.co.jp

脱炭素ではなく脱化石を目指す

── 早速ですが、Hondaはなぜ藻を研究しているのでしょうか。

塚越 私たちは、CO2をうまく使うことでカーボンニュートラルの達成を目指す技術の研究をしています。CO2排出を減らすことも大事ですが、我々は出してしまったCO2を吸収し、別の物質に変換/再利用したり、除去したりすることでトータルゼロにする方法を考えています。そのひとつに「藻類」があります。

藻類はCO2を吸収して育ちますし、変換することでバイオ燃料としても利用できます。

CO2を吸収・除去することで、CO2差し引きゼロを目指す

今、エネルギーの多くは、化石資源に依存していて、モビリティを動かすのもそうですし、多くの電気も化石燃料を燃やしてつくられています。化石資源は安価なので、それをベースに社会が成り立っているんです。

Hondaもこれまで、二輪、四輪、ジェット機など、自由な移動の喜びのために、化石燃料を使ったモビリティを提供してきました。

ただ、地球温暖化に手を打つためには、それを変えなくてはいけません。社会を変えるためには今までにない技術が必要で、そのひとつが、私たちの研究している技術なんです。

塚越 範彦

── 自動車業界では、EV化の勢いがますます増していますよね。

塚越 電動化できるところはすべきだと思います。ただHondaの場合は、商品が多領域に及んでいる、いわゆる多面体でのビジネスであり、全てを電動化するには高いハードルがあります。

バイクや自動車など、短距離移動の地上モビリティは電動化がしやすい一方で、ジェット機や船舶など大出力のモビリティは電動化が難しい。電動化が難しい領域では、やっぱり燃料が必要で、合成燃料やバイオ燃料といった代替燃料が必要です。

二輪や四輪だけでなく、船外機やジェット機なども作っているHondaだからこそ、さまざまな道を考えなければなりません。

適材適所のエネルギーの組み合わせ

また、Honda製品は世界中でさまざまなお客様にご利用いただいています。先進国と発展途上国では、環境も全く違いますし、電気自動車をつくって終わり、というわけにはいきません。用途と地域にあわせて、電気、水素、合成燃料、バイオ燃料など最適なエネルギーの組み合わせを見つけることが重要です。

CO2を排出しないことと、回収すること

── 電動化や水素化で、CO2排出量を減らすことだけではないんですね。

塚越 基本的には、CO2は排出しない方がいいですが、ただどうしても難しいところでは、燃料を使いながらも、排出したCO2の回収・利用までセットで考えて、環境負荷を減らすのがいいと思っています。

CO2を資源と捉えて循環させる=カーボンサイクルという考えです。

例えば、工場の排ガスから直接CO2回収するのもその一つです。ただ100%排出源から直接回収するのは不可能なので、一度大気中に拡散してしまったCO2については、DAC(ダイレクト・エア・キャプチャー)という技術で大気中から回収することもできます。

回収したCO2は、埋めてしまう手もありますが、それを燃料に変換して利用することもできます。

カーボンサイクルとは

── CO2を回収して、燃料にすることができれば一挙両得ですね。

塚越 そうですね。ここで藻類の活用を考えています。

塚越 範彦

ここからは、Hondaが研究する藻類『Honda DREAMO(ドリーモ)』の研究開発リーダーの福島にバトンタッチしますね。

知られざる藻の力、CO2の吸収力とは

── では、福島さん。藻の魅力・可能性について教えてください。

福島 はい、ぜひ。まず、藻のCO2の吸収力はすごいんです。

実は、藻業界では、かつて恐竜が絶滅した原因は「藻」だという説があって。恐竜が生きていた時代、藻が爆発的に増殖して、CO2をどんどん吸収して酸素が急に増えて。その結果、恐竜が絶滅したと言われています(笑)。それくらい藻にはCO2を吸収する力があります。

福島 のぞみ

── すごいですね(笑) 藻の中でも、DREAMOには、どういった特徴があるのでしょうか。

福島 藻の分裂スピードが早い、つまり成長が早いことが特徴です。

5時間に1回くらい分裂するので、早いときには1日に5回分裂します。これは、1個の藻が2個、4個、8個、16個、32個と増えていく計算。

DREAMOの分裂の様子

藻は1g当たりCO2 2gを吸収します。藻が増えれば増えるほどCO2を吸収するので、分裂回数が多いDREAMOは、CO2の吸収力が高いということです。

藻によっては、1カ月でやっと2個に分裂するような種類もあります。我々はCO2吸収にこだわっていたので、分裂スピードを重視して研究してきました。

── 成長した藻はどのように活用されるのでしょうか。

福島 藻の活用先は多岐にわたります。自動車にまつわるものだと、バイオ燃料やバイオ樹脂などがあります。そのほか、栄養補助食品、健康・美容サプリメント、医薬品など、さまざまな事業分野での活用が考えられます。

藻類を使える可能性がある分野

── クルマの部品にも使えるということですか。

福島 そうですね。プラスチックへの展開も視野に研究を進めています。工場長からは「早くクルマの部品にしたい」とも言われたりしていますね。

ただ化石由来のものと比べると、藻由来の燃料や樹脂はどうしてもコストは高くなります。

そこは課題ですが、例えば、まず成分をエタノールとして使い、残った成分を食品やサプリメントなどに使うなど、成分を余すことなく活用することで、トータルでビジネスとして成立させられるのではないかと考えています。

さまざまな使い道が考えられるので、関連する分野の他企業と連携することで、その可能性をさらに広げていきたいです。

── 藻の魅力と可能性がわかってきました。

福島 ありがとうございます。よかったです。

また、藻にはもうひとつ大きな魅力があります。それが、砂漠や沿岸地域でも育てられるという点です。

バイオ燃料は、サトウキビやトウモロコシなどからつくるものもありますが、こうした農作物は塩の多いところや砂漠ではなかなか育てられません。けれど、DREAMOなら、CO2を凝縮できるDACシステムと一緒に持っていけば、砂漠や沿岸地域などでも培養することができます。

うちのDREAMOたちはとっても強い藻なんです。また、私たちの生み出した培養システムは、一般的な培養システムに比べて、培養液の再利用効率が高く、少量の水(回収した藻に含まれる分の水)と栄養分を追加するだけで繰り返し使うことができます。約3か月間、同じ培養液で生産が可能なんですよ。

培養されているDREAMO

食べ物をつくる土地を、燃料をつくる土地が奪ってしまったら、食物不足につながってしまいます。土地の取り合いにならないのも、藻が持つ大きな魅力だと思っています。

DREAM×藻=DREAMO、地球環境と人類への想い

── Hondaが藻の研究と聞いたときは驚きました。

福島 私は、藻の研究がやりたくてHondaに入りました。ずっと藻が大好きで。チャレンジ精神を大切にするHondaなら、研究をやらせてもらえるのではないかなと。

入社当初は、別の仕事をしていましたが、どうしても藻の研究がやりたくて、とある機会を見つけて社長に直談判。すると、その場で「やってみろ」と承諾をもらえたんです。

そうして最初は一人で始めた研究も、徐々にメンバーも増えてきて。

さらに2年前には、CO2を回収/変換する研究グループができました。これまでは、ひとつのチームで、CO2だCO2だと言っていたんですが、今は心強いメンバーがたくさんいます。

福島 のぞみ

── 大変なことも多かったのではないですか。

福島 実は、研究開始から3年経った頃、全く芽が出なくて、研究終了が言い渡されそうになりました…。でもどうしてもやめたくなかったので、バイオ燃料を必要としてくれる事業部を探して、片っ端から声を掛けたんです。

そんななかで、強く背中を押してくれたのが、二輪事業部門でした。「うちには必要な技術だ。俺たちが絶対使うから」と上に掛け合ってくれた。本当に格好良かったですよ。

二輪業界でも電動化は進んでいます。ただ、電動バイクは値段が高くなってしまうので、特に日常の足として二輪を使っているインドや東南アジアなどの新興国では買える人が限られてしまいます。電動化の波で、生活の足を奪われて困る人が増えないように。そうした意味でも、バイオ燃料は人の役に立つと思っています。

塚越 範彦と福島 のぞみ

── 最後に、DREAMOで目指す未来を聞かせて下さい。

福島 私たちは、DREAMOを培養するために、暑い日も寒い日も欠かさず、雨や雪が降ろうがびしょ濡れになりながら作業をしています。

なぜ、そこまで頑張れるのか。それは、DREAMOがCO2を回収することに加えて、食料になったり、新興国に新たな仕事を作ったりすることで、飢えたり苦しんでいる人たちの助けになるかもしれないからなんです。

私は、HondaはCO2を排出する自動車をつくっているのだから、CO2を回収するのが義務だと思っています。

CO2の増加で温暖化が進むと、干ばつなど大規模な自然災害も増え、新興国のなかにも苦しむ人たちが出てくるかもしれない。どんな人たちの前でも、胸を張れるように、できることを少しでもやっていきたいと思っています。

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