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Saturday, November 4, 2023

【宝塚】宙組公演「PAGAD(パガド)」「Sky Fantasy!」宝塚大 ... - 読売新聞社

あまりに多くのことが起きたこのひと月。ミライさんがひと月前の舞台を振り返りました。

書き始めては中断し、消し、書き直しては消し、を繰り返しもう一ヶ月がたってしまいました。その間、公演のことを外部に発信することすらはばかられるような気持ちにすらなっていました。

新生・宙組に心からの祝福と拍手を送り、会場全体に多幸感が満ちていたあの日から一転、耳を塞ぎたくなる情報、どのように受け止めればいいのかわからない報道、巷にあふれる様々なコメントに悲嘆し、時に怒りも感じ、また傷つきました。宝塚歌劇団を愛する方の多くが、似たような状況にあったことでしょう。信用できる情報のみを選り分け、生徒の皆さんのために祈る中で、心の平穏を少しずつ取り戻すことができました。

この原稿を書いている現時点(11月1日)では今後の見通しは不透明なままです。私自身、まだしばらく葛藤は収まりそうにありません。しかしながら公演から約1ヶ月が経過した今感じるのは、あの公演で私が目にした素晴らしいパフォーマンス、場内の興奮、そして私が味わった感動はまぎれもない事実であるということ。そして、亡くなった生徒さんを悼み、生徒やスタッフの皆さんの健康を祈りながら、万全な状態での再開を願うこと、公演の魅力を称えて発信することはそれぞれに成り立つことであり、どれかを軽んじることでは決してないと考えるに至りました。

前置きが長くなりました。たった3公演で中断してしまった宝塚大劇場の宙組公演を客席から見届けたものの1人として、当時のメモや各種媒体での情報なども組み合わせながら、ただただ個人的な感動ポイントを通常営業でリポートしたいと思います。

芹香斗亜さん、春乃さくらさんの新トップコンビお披露目公演は、アレクサンドル・デュマ・ペールの小説「Joseph Balsamo」と、オーソン・ウェルズが主演した1949年の映画「BLACK MAGIC(黒魔術)」(グレゴリー・ラトフ監督)を原作にした田渕大輔氏の脚本、演出によるお芝居「PAGAD(パガド)〜世紀の奇術師カリオストロ〜」から始まります。「パガド」はタロットカードの中の「奇術師」を意味し、18世紀のフランスを舞台に、みずからの不思議な力=催眠術を使い、宮廷で暗躍した奇術師・カリオストロ伯爵の生涯を描きます。

◾️PAGADのあらすじ

主人公はロマの青年ジョゼフ・バルサモ。幼い頃、ド・モンターニュ子爵による理不尽な裁判により眼の前で最愛の母を処刑されてしまいます。長じて、ジョゼフは催眠術を使って人々にあやしげな薬を売り、ロマの仲間たちの生活を支えます。仲間内では朗らかで優しい兄貴分ですが、心の底では失ってしまった愛を渇望し、貴族や権力への憎しみを持ち続けています。

催眠術で貴族の病気を直したことをきっかけに、ジョゼフはカリオストロ伯爵と名を変えて欧州を席巻し、やがて宮廷に出入りするように。そこで出会ったのが宿敵である子爵と、春乃さん演じるロレンツァ。子爵は自らの陰謀のためにロレンツァを利用しようとしており、ジョゼフは子爵の企みに加担しながら、自らの復讐を成し遂げようと機会を伺います。

陰謀のためロレンツァに催眠術をかけ、自分を愛するように仕向けるジョゼフですが、いつの間にかロレンツァに真実の愛を感じるように。一方、ロレンツァの恋人である近衛隊長ジルベールは彼女の行方を追い、やがてジョゼフと対峙することになります。ジョゼフは愛と復讐の両方を成し遂げることができるのか……というのが大まかなストーリーです。

■悪の魅力と色気に満ちたジョゼフ

ジョゼフは、インタビューでも「悪役が好き」と話す芹香斗亜さんにぴったりな、貴族を手玉に取ってハッタリをかまし、のし上がっていく悪の魅力に満ちた男。その反面、愛を求めながら愛し方を知らない故に暴走し、また自らの力を過信しすぎて冷静さを欠いてしまうといった未熟さや脆さも持ち合わせています。悪のふてぶてしさと、不器用で思わず守ってあげたくなる弱さという両極端な二面性のキャラクターを、芹香さんが魅力的にかつとてもセクシーに作り上げています(ちなみに元雪組の望海風斗さん的系譜を芹香さんが受け継いでいるようにも感じました)。

幕開きの登場時、暗闇の中から発光したように……といいますか発光しておられました、発光したジョゼフが登場した時の存在感は凄まじく、さらにはその後銀橋に出て歌を始めるまで拍手が一向に鳴りやみません。今まで多くの舞台を見てきましたが、あれほどまでに長く大きな拍手は経験したことがありませんでした。観客の想いが伝わってきました。

その芹香さん、年々化粧を含めた舞台技術の向上が著しいのですが、今回のジョゼフはとにかく視線、手の演技、所作といった細やかなところからセリフ、歌に至るまで終始妖艶さをまとっていて目が離せません。貴族を弄び成り上がっていくジョゼフは自信に満ち大人の色香をまとい、己れを見失い破滅的な行動を繰り返す様にも心が鷲掴みにされるような危うげな魅力に溢れています。存在感と迫力ある歌声で終始舞台をリードし、時にアドリブぽい茶目っ気を見せるなど余裕な姿に、トップスターになられた凄みを感じずにはいられませんでした。

■芝居巧者の桜木みなと、新境地の瑠風輝

春乃さくらさんは、鈴を転がしたような透明感のある歌声が魅力的で、芹香さんとの歌の応酬も聞き応えがあります。貴族の娘ロレンツァとマリー・アントワネットの二役で、健気な少女と気位の高い王妃を演じ分けます。その舞台姿からは一生懸命さが伝わります。気品あるドレスさばきは美しく、芹香さんとの立ち姿も本当にお似合いです。

ジョゼフの恋のライバルとして対峙する近衛隊長ジルベール役は、この公演で二番手の羽をついに背負った桜木みなとさん。近衛隊長といえばベルサイユのばらのオスカルが頭に浮かびますが、このジルベールもまた清廉でヒーローのような正統派二枚目です。近年は個性的な役が多く、芝居巧者の桜木さんが若々しく品良く演じています。最後の芹香さんとの大立ち回りも終始丁寧で息もぴったりです。キキずんのお芝居をもっと見たい!と感じてしまいます。

今回大活躍なのは、ジョゼフが復讐を誓うド・モンターニュ子爵を演じた瑠風輝さん。新体制となったことでNo.3となり新境地に挑んできました。知的で純朴な好青年のイメージが強い瑠風さんが、権力欲に取り憑かれ策謀をめぐらす堂々とした敵役です。高身長に抜群のスタイル、深みのある声で、実力は申し分なしの瑠風さんは迫力満点。回を重ねるごとにさらに狂気が増してくるのでは、と感じました。

世紀の悪女であるデュ・バリー夫人をチャーミングに造形した天彩峰里さん、登場シーンは短いながら溢れんばかりの母性愛でジョゼフの心の原点が彼女であることを示した母親役の小春乃さよさん、一服の清涼剤のように、劇中ではほほえましい純愛を貫く医師の助手役の泉堂成さん、登場した瞬間から客席の笑いをかさらっていった患者役の真白悠希さんら、宙組生の魅力も十分に堪能できます。

■愛を求め、成長する男の一代記

フランス革命期の混乱、宮廷の陰謀、歴史上の出来事など、ファンには気になる見どころが散りばめられ、愛と復讐がテーマになっていますが、全編を通じてやはり「愛」に重きが置かれていると感じました。愛を求めてもがき、苦しみ、成長していくジョゼフの一代記にテーマが収れんされており、ミュージカル「オペラ座の怪人」を彷彿とさせるような切ない展開もあります。

ロレンツァの愛を催眠術でしか得られなかったジョゼフ。術から解き放たれたロレンツァは果たしてジョゼフにどのような思いを、記憶を残しているのか。ラストシーンの二人のやりとり、そこでのロレンツァの言葉や表情は見る側の想像が掻き立てられるもので、余韻を残したまま幕は下ります。

PAGADだけで随分と長くなってしまいましたが、この後にはショー「Sky Fantasy!」が控えています。

■ショーは序盤からテンションMAX

宙組の「空」、芹香さんの芸名の由来でもある「天空」をモチーフにしたショー「Sky Fantasy!」は、各生徒の魅力が発揮できる場面があり、下級生までが銀橋で歌い、さらには退団者にも見せ場を作るなど、演出家・中村一徳氏の愛が詰まった、ファンにはたまらない作品です。新トップコンビお披露目を寿ぎ、新しいスタートを強く意識した曲で彩られています。全般的に明るく、パワフルな歌やダンスが次々に繰り出され、息をつくまもなく秒速で終わってしまったというのが正直な感想です。

冒頭、芹香さんが新しい始まりをテーマに歌いだします。包み込むような優しい歌声、やがて宙組生に囲まれ、お祭り騒ぎのようなにぎやかさで一気にテンション全開です。「あの芹香さんが走っている?」と我が目を疑うほどに、芹香さんが、そして組子全員がエネルギッシュに動き、歌い、踊りまくります。そして注目の「キキダンス」ですが、私は結局どこで踊られたのかわからずじまいでした。

雨をテーマにしたしっとりとした場面ではシックな紳士淑女の装いのキキさくコンビをはじめとする男女が端正なタンゴを、続いての虹の場面では、ハット姿の桜木みなとさんら男役と娘役が情熱的なダンスをそれぞれ魅せます。このあたりですでに脳みそは酸欠状態に。そこからさらに、客席降りもある中詰がきて、中村先生は片時もファンを(生徒も)休ませてくれません。

客席おりでは芹香さんが大劇場の隅から隅まで走り回り(あの芹香さんが走るんです)、さらには観客と満面の笑みでハイタッチ。コロナ禍以降、少しずつ客席降りが解禁されてきましたが、ついにハイタッチまで……と感無量になりました。

■芹香さんが希望した下級生のダンスと歌

今回のショーでは芹香さんが希望して取り入れられた場面がいくつかあるといい、その一つが、鷹翔千空さんら若手、下級生が舞台をジャックして踊りまくる「満天のダンス」。鷹翔さんのハスキーな歌い方とキャッチーなメロディがクセになりそうです。そして、芹香さんが独唱する平井大さんの「はじまりの歌」。そこからは天空のシーンとなり、白い衣装の組子たちが神々しいほどです。圧巻はフィナーレの黒燕尾の群舞。宙組ではしばらくぶりの黒燕尾ですが、真ん中に立つ芹香さんのたたずまいの精悍さに、思わず花男みを感じてしまいました

さて芹香さんが「自分の気持ちとリンクしている」とインタビューで話されていた「はじまりの歌」には、「遥か遠く見てた場所に いま僕らは立っている」という素敵な歌詞があります。包み込むような温かな歌声でこの歌詞を語られた時、3013日におよぶ二番手時代を経てようやくトップへと立った彼女の来し方ーーそれはショーの合間で「あっ」と感じさせる星組・花組らしさであったり、思わず唸ってしまうほどの芸能スキルの上達ぶりだったりに表出しているのですがーーに思いを馳せてしまいました。そして真ん中に立つ彼女の周りで輝きを放つ春乃さん、桜木さん、瑠風さんをはじめとする組子の姿の頼もしく、美しいことといったら。舞台から繰り出されるすさまじいパワーに、ただただ心が震えるばかりでした。

ショーが終わり客電がついた後も立ち上がれないほどに泣いている観客の姿を、今回も大勢見ました。それほどに宙組生のパフォーマンスは素晴らしく感動的でした。そしてその勇姿は、日がたつにつれてむしろより鮮明に心のなかに蘇ってきます。

■最後に

   

繰り返しますが、ここで記した公演が今後どうなるのか、この先のことはまだわかりません。ただ2023年9月27日に宝塚大劇場で始まった宙組公演が素晴らしかったことをこの場を借りて記録にとどめ、彼女たちの頑張りやあの感動を「なかったこと」にしたくないと今は強く感じています。

末筆ながら、亡くなられた生徒さんのご冥福を心からお祈りするとともに、すべての劇団関係者、生徒の皆さん、ファンのみなさんが健やかな日々を送られることを、その日が来ることを願ってやみません。(ライター・みらい)

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