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Thursday, January 18, 2024

【インタビュー】現代陶芸の「今」を探る公募展「菊池ビエンナーレ」 大賞受賞者 若林和恵さんに聞く【PR】 - 読売新聞社

菊池寛実記念 智美術館(東京・虎ノ門)にて、現代陶芸の「今」とその可能性を探る公募展「菊池ビエンナーレ」が3月17日まで開催中です。
陶芸作品であれば年齢や制作内容に制限のない本展は、2004年度より隔年で開催され、今年で第10回目を迎えました。
今回、応募総数359点の中から大賞に選ばれたのは、若林和恵さんによる《色絵銀彩陶筥「さやけし」》。制作までにどのような道のりがあったのか、若林さんにお話をうかがいました。(聞き手 ライター・虹)

記念の回 嬉しさとともに緊張も

──まずは大賞を受賞された今のお気持ちをお聞かせください。

大変光栄です。夢なら覚めないで、と毎日思っています(笑)。「菊池ビエンナーレ」が開催されて10回目という記念の回でもあるので、そうした節目に自分が選ばれたことに、嬉しさとともに緊張も感じています。

──若林さんは大学院を修了されてから、その後約5年間イタリアのファエンツァで作陶をされています。イタリアを選ばれた理由は? また、実際に現地で活動してどうでしたか?

色を使う焼き物に興味があり、イタリアを選びました。違う文化に身を置くことでよい刺激を受けましたね。日本とは異なる土、釉薬や絵具を使用した技法を学ぶことができ興味深く、面白かったです。
気持ちの面で言うと、生活が馴染んできても、やはり自分は異国から来た人なんだということを無視することができずにいました。こうした意識が、その後の作品に繋がっていったように感じます。

──制作の姿勢に変化が起きたということでしょうか。

そうですね。イタリアでは現地で出会った色彩や風景のイメージをそのまま作品に落とし込んでいたんです。過ぎ去ってしまう一瞬を作品に留めたいという気持ちが強かった。
けれど、自分はここでは異国の人なんだ、日本人なんだという意識を持ってからは、「異なるものを作品の中で融合させたい」という思いが生まれていきました。日本に戻って銀彩を始めてからは、カラフルな色だけでなく、少し複雑な今までにない色彩を追うようになりました。

今までは見せてこなかった不安や悩みも表現したい

──今回の受賞作も、華やかだったり落ち着いていたりと、ひとつの作品から様々な銀の表情が見て取れます。

これまでは単純に綺麗なものを表現したいという気持ちでやってきたけれど、どこかで「私はこのまま同じことをやっていていいのだろうか」という疑問が湧いてきたんです。きっかけは東日本大震災。近年では新型コロナウイルスや、戦争などの問題に向き合うようになって、それがより明確になっていきました。
自分の内側ではすごく悩んで心を痛めているのに、制作になると「きれいに、きちんと作ろう」としてしまうことに違和感を持つようになったというか。もっと心の内側にある悩みや葛藤、それに対して希望を持ちたいという相反する気持ちを作品に混在させたいと思ったんです。

──今までは作品と切り離していた、心情の表現に挑戦したということでしょうか。

はい。今までは「食器」という日常で使えるものを多く制作していましたが、今回は「自分のエッセンスを入れるもの」という、非日常であるものをあえてイメージして作りました。
本当はくよくよしたり、うじうじ悩んだりしているところはあまり見せたくないのですが、ずっとそれを隠して制作していることに自分が落ち着かなくなってきて。悩みもぶちまけてしまおうと(笑)。
タイトルも、不安や悩みと同時に希望を持ちたいという気持ちから、悩んだあとに辿りつくところが明るくて清らかな場所であるようにという想いを込めて、その古語である「さやけし」と付けました。

若林和恵《色絵銀彩陶筥「さやけし」》

──銀が眩いのは希望を表現されているのですね。所々に青い釉も見えました。

実は最初に、白の地に青い絵の具で絵を描いています。今回の作品で「青」は自分の中の心配や不安を表現する存在でした。その後に銀箔を貼っているのですが、仕上がりを見ると「青」のほとんどを銀で埋めつくしていて、自分でも「こんなに銀を貼るなら、最初に青で描かなくてもいいのでは」とも思いました。でも、自分の過程の中にまず悩みを吐き出す行為があって、次に銀を希望に見立てて悩みを埋めていくという、何か祈りのような作業があって。一見無駄に見えるその過程がなければこの作品は完成しなかったので、この工程の跡が、作品から伝わっていたら良いなと思います。

作品を通して人と関わることができたら

──若林さんは作品を通じて自分自身、また鑑賞者と対話をされているように感じます。

そうですね、それができていたら嬉しいですね。自分よりも作品が前に出ていく仕事ですし、制作している時は一人でこもりがちなのですが、どこかで人と関わりたいという気持ちがあるんです。結局は人が好きなんでしょうね。陶芸という表現を使い、作品を通して人と関わることができたら良い、そんなふうに思っています。

──今後挑戦してみたいことはありますか?

物事の白と黒の間のグレーの部分、そういった曖昧なところを作品の中で語っていけたらと思っています。
また、今回の作品には自分の新しい試みとして漆も使っているのですが、それを深めていければ。漆は英語で”JAPAN”と呼ばれるほど日本を代表する工芸の素材なので、日本人というルーツがあるからこそ生まれた作品と思ってもらえるものを作ってみたいですね。

──最後に「菊池ビエンナーレ」の見どころと、来場者へのメッセージをお願いします。

「陶芸」と一口に言っても、いわゆる伝統工芸と呼ばれるものや、彫刻に近いものなど様々です。「菊池ビエンナーレ」は、陶芸のあらゆる分野の人が出品する制約の少ない公募展。応募者の年代も幅広く、出品者の私も「こういう作品を作る人もいるのか」といった発見を楽しんでいます。
また会場である智美術館は造りがとても綺麗で、空間と作品の協演も味わえるため、作家としてこういった場に置いてもらえる喜びも感じますね。
陶芸が好きな人はもちろん、初めて陶芸に触れる人にも、良い出会いがある公募展なのではないでしょうか。

「菊池ビエンナーレ」会場風景 舞台のような展示室内に、個性豊かな入選作品が並ぶ

菊池ビエンナーレは2024年3月17日(日)までです。不安と希望を作品に織り交ぜ、新境地を開拓した若林さんの「さやけし」をはじめ、高い技術と個性が輝く陶芸の世界をお見逃しなく。

<若林和恵さんのプロフィール>
神奈川県在住/1968年生まれ
1991年 東京藝術大学美術学部工芸科陶芸専攻卒業
1993年 東京藝術大学大学院美術研究科陶芸専攻修了
浅野陽氏に師事(~1996年)
1998年 イタリア・ファエンツァ陶芸美術学校卒業
2023年 第10回菊池ビエンナーレ大賞受賞
現在、日本工芸会正会員
公募展(入選):伝統工芸新作展、日本伝統工芸展、東日本伝統工芸展、萩大賞展Ⅳ、菊池ビエンナーレ、日本陶芸展、日本クラフト展
パブリックコレクション:ファエンツァ国際陶芸博物館(イタリア)、緑ヶ丘美術館(奈良)

第10回 菊池ビエンナーレ 現代陶芸の〈今〉
会場:菊池寛実記念 智美術館(東京都港区虎ノ門4-1-35西久保ビル)
会期:12月16日(土)~2024年3月17日(日)
開館時間:11時~18時(入館は17時30分まで)
休館日:月曜日(ただし2月12日は開館)、2月13日(火)
アクセス:東京メトロ日比谷線神谷町駅から徒歩6分、虎ノ門ヒルズ駅から徒歩8分、南北線六本木一丁目駅から徒歩8分、南北線/銀座線溜池山王駅から徒歩8分、銀座線虎ノ門駅から徒歩10分
入館料:一般 1,100円/大学生 800円/小中高生 500円
詳しくは館の公式サイトhttps://www.musee-tomo.or.jp/へ。

会場の雰囲気やほかの受賞作品などについては下の開幕記事やプレビュー記事もご覧下さい。

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