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Thursday, July 29, 2021

時代の変化を敏感にキャッチ、それぞれの課題に立ち向かう若き獅子たち - 日経テクノロジーオンライン

 2019年からスタートしたNTTドコモ・ベンチャーズ(以下、NDV)の伴走型インキュベーションプログラム「/HuB(スラッシュハブ)」が第5期に突入した。シード、アーリー期のICT関連スタートアップにワークスペースを半年間無償で提供し、メンタリングやNDV関連イベント登壇などの機会が与えられる。採択された3社、そしてNDVの新社長と担当者にプログラムに臨む意気込みを聞いた。

一緒に活動することで相互に学びを得る特別な機会

 2019年から始まり、このたび第5期のメンバーを迎えたNDVのインキュベーションプログラム「/HuB(スラッシュハブ)」。第5期で新たに3社が加わったことにより、ついに累計のスタートアップ数が20社となった。

 BtoBのAI恋愛ナビ「Aill」、トレーナー向けにAIスポーツ解析を提供する「Sportip」、展示型ECで地域活性化に取り組む「Catalu JAPAN」、不妊治療向けの情報・データ支援サービスの「vivola」、ハンター向けコミュニティを運営する「Fant」など、これまでもインキュベーションプログラムにはバラエティに富んだ面々が参加してきた。

 今回採択された3社も、音声コンテンツ配信の「EARS」、就活における敗者復活サービス「ABABA」、AIの基盤データ作成の「FastLabel」と見事にベクトルがバラバラだ。NDVでインキュベーションを担当する加納出亜氏は「それぞれ切り口がユニーク。NTTドコモの事業領域にこだわらず、将来の可能性を見て選んでいる」と話す。その上で、本プログラムがめざす地点を次のように説明する。

NDVでインキュベーションを担当する加納氏

 「このインキュベーションプログラムは、スタートアップのポテンシャルを最大限引き出すために運営してきた。NTTドコモが進出していない領域を手がけるスタートアップと活動をともにすることで、我々にも新たな知見が蓄積され、まだ見ぬフィールドに踏み出すきっかけにもなる。当初はチャレンジの連続だったが第4期まで進めてきた結果、採択したスタートアップがそれなりに成長して、今までになかったようなビジネスを生み出すまでになった。これからも、双方にとって価値がある活動だと自負している」(加納氏)

オタク、就活生の敗者復活、AIデータ作成――三者三様の視点が面白い

●EARS 代表取締役CEO 萩原湧人氏

 EARSは2019年11月に創業。代表取締役CEOの萩原湧人氏は東京大学工学部 電気電子工学科で音声を研究し、大学3年生で起業した人物だ。一般消費者向けエンタメ音声アプリの「ear.style」と、法人向け音声コンテンツ制作サービス「ear.style studio」が事業の2本柱となる。

 ear.styleは現在開発中で、2021年夏頃のリリースを予定。自分の好きな配信者から毎日ボイスメッセージが届き、着信画面を模したUIから聴くことで本当にその人と電話しているかのような擬似体験ができる。さらに1話3分から聴けるボイスドラマの配信も想定するなど、徹頭徹尾“音声”にこだわった。配信者の中心に置いたのは声優だ。

EARS 代表取締役CEO 萩原湧人氏

 萩原氏はear.styleを「オタク向けのサービス」と位置づける。中学・高校と男子校で育ち、多感な時期からアニメや声優にのめり込んだ自らの嗜好を存分に反映した。「アイドルはファンサービス系のアプリがたくさんあるが、声優はまだ距離が遠い。コロナ禍でリアルイベントも中止になり、ファンとのつながりが薄れた背景もある。声優業界はDXが遅れているので、デジタルコンテンツをもっと発展させるべきだ」(萩原氏)。

 ear.style studioはBtoBのPodcastや音声チャンネル制作が主で、すでに学研や博報堂DYメディアパートナーズなどでの実績がある。「最近は企業での音声コンテンツ制作ニーズが非常に高まっている。サウンドクリエイターチームによる高品質なコンテンツが我々の特長」と萩原氏は語る。

 インキュベーションプログラムに応募した理由は、NTTドコモが持つ通信技術、通話機能、メッセージ機能などと掛け合わせることで、自社サービスの進化が見込めると考えたからだ。

 「日本が最も強い市場はオタク市場。GAFAのような巨大プラットフォーマーが乗り込んできても、こちらでコンテンツを制作していれば世界と戦える。中でも声優の音声コンテンツはファンも熱心で、伸びる余地は十分にある。我々もしっかりとファンを獲得できるようなクオリティの高い音声コンテンツを作っていく」(萩原氏)

●ABABA CEO 久保駿貴氏

 誰もが知る有名企業の最終面接まで進んでも、当然のことながら不採用に涙を飲む学生は毎年たくさんいる。狭き門の企業では4〜5回の面接を重ねることもザラで、第一志望にかける就活のエネルギーは相当なものだ。それだけに、いわゆる「お祈りメール」が届いた瞬間の精神的な落胆は大きく、場合によっては就活うつに追い込まれてしまったり、最悪は自死を選んでしまったりすることもある。

 何十年も続くこうした就活のネガをポジに反転すべく、ABABAは逆転の発想で就活を支援する。端的に言えば、“就活生の敗者復活マッチングプラットフォーム”だ。まず、最終面接を経てお祈りメールを出した企業が、落選した学生にABABAへの登録を促す。学生は発信元が担保されているお祈りメールに加えて選考履歴や自己PRを、企業は最終面接まで残った理由を推薦文として掲載し、その推薦文を閲覧したほかの企業がスカウトする仕組みとなっている。

 「当社では、『不採用後も、企業(人事)と学生の関係性を良好で継続的なものに。』をミッションに掲げている」と話すのは、ABABA CEO 久保駿貴氏。起業のきっかけは幼馴染みが第一志望の最終面接に落ち、その途端に当該企業を激しく嫌いになってしまったことだった。「最終面接に至るまでに学生がかけた労力や費用がムダになり、結果的に企業は年間何百人ものアンチの学生を生み出している。落ちたとはいえ、最終面接まで進んだポテンシャルは評価されてもいいはず。落ちたら終わり、1発勝負の世界を変えたいと思って起業した」(久保氏)。

ABABA CEO 久保駿貴氏

  もともと気象学を学ぶために関西大学から岡山大学に編入したほどの生粋の理系だが、関大時代からビジネスに興味があり、2020年10月、岡山大の4年時にABABAを立ち上げた。そのビジネスモデルはさっそく各メディアから注目され、先日のテレビ放送をきっかけに100社を超える企業から問い合わせが殺到した。

 「この反響によって、PMF(プロダクトマーケティングフィット)が確立されていると自信がついた。学生にとって“あの会社の最終面接までたどり着いた”という客観的なエビデンスは大きな武器になる。これにより採用したい企業と学生とのマッチングの精度が高まり、採用できなかった企業にとっても“不採用後も学生に寄り添う企業”とのイメージが定着し、ブランディング向上につながる」(久保氏)

 同社が提供するのはあくまでプラットフォームであり、登録や利用料などは無料。無事に採用された場合にのみ成果報酬が発生する。マネタイズを安定させるため現在は月額課金モデルを設計しているそうだが、利益よりも学生と企業の出会いの創出に重きを置く。

 「目下の懸念は大手人材企業の参入。資本力で挑まれたら勝ち目がない。そこでNDVの協力を仰ぎ、NTTドコモ、NTTコム、NTTデータ、NTT東・西といったNTTグループとの橋渡しが実現できないかと考えている。そうすれば参入障壁となるに違いない。いずれは何万人もの学生が利用するサービスに育て上げていきたい」(久保氏)

●FastLabel CEO 鈴木健史氏

 FastLabelはAI開発を高速化するアノテーションプラットフォームを提供する。AIにおけるアノテーションとは、データに注釈をつけて教師データを作成する作業であり、ここでのデータ品質がAIの精度を大きく左右する。

 FastLabel CEOの鈴木健史氏は「一般的なAIは、上部の計算レイヤーであるアルゴリズムが主役で語られることが多い。対して計算の基盤となるアノテーションは地道な労働集約型の作業であり、誰もがやりたがらない」と解説する。しかし実際のAI開発は、アノテーションによる教師データ作成に7割の時間を費やしているのだという。「こうした課題を、FastLabelのサービスで支援していく」(鈴木氏)。

FastLabel CEO 鈴木健史氏

 プラットフォームは直感的な操作性を備えたアノテーションツールに加え、データ管理を見える化するダッシュボード、膨大なデータの柔軟な検索・ソート機能、チーム同士のコミュニケーションを活性化するチャット機能などから成る。そのほか、データ品質保証がついた教師データ作成代行サービスも用意。アノテーションに精通した専門スタッフが作業を担当する。

 2020年1月に創業したばかりだが、「高い品質の教師データに対するニーズは多く、おかげさまでビジネスが回り始めた。AI精度が2〜3割向上したとの声もいただいている」と鈴木氏は話す。建設、保育、不動産、製造、医療など、これまでAIの適用が遅れていた業界が一気に流れ込んでいる追い風もある。

 「NDVのインキュベーションプログラムに応募したのは、ビジネスの拡大に課題を感じていたから。NTTグループではさまざまなAIサービスを開発している。NTTグループで我々のサービスを活用してもらい、上手く事が運べば教師データ作成からAIサービスの運用まで一気通貫で提供できるようになるかもしれない」(鈴木氏)

 「AI開発など無縁だと思っている企業が、簡単にAIを導入できるようにしたい」と鈴木氏。世の中にあまねくAIが普及する“AIの民主化”に向け、まずは高品質な教師データ作成に尽力する構えだ。

新リーダーのキーワードは「オープン、フラット、ダイバーシティ」

 第5期の採択とほぼ時を同じくして、NDVの代表取締役社長に笹原優子氏が就任した。iモードにサービス黎明期から携わり、その後もエバーノートとの協業や、NTTドコモの新規事業創出プログラム「39works」を運営するなど、“ベンチャーマインド”を胸に抱いて数々の事業に携わってきた。

 「iモードはドコモサービスとしての基盤(場)の上で数多くの企業・ベンチャーにアイデアを出していただき、一緒になってサービスを開拓し新たな文化を共創してきた。NDVもスラッシュハブや投資などの事業を育む仕組み(場)を通して、外部のスタートアップと未来を共創していく。一見かけ離れているように思えるが、オープンイノベーションのスタンスは共通している」(笹原氏)

NTTドコモ・ベンチャーズ 代表取締役社長 笹原優子氏

 採択した3社については「バックグラウンドや専門性が異なり、抱えている課題や視線に個性がある。そのアイデアは我々には思いつかないものなので、開花する可能性は十分にある」と評価する。そこで重視するのが「ともに未来を切り開く姿勢」だ。

 「我々自身が未来を生み出すスキルを養う必要がある。そのスキルがないとスタートアップの人たちと同じ言語で話すことはできないと思う。自分たちのテリトリーだけではないオープンな環境の中で、自分たちも成し遂げたいことを実現しながらどのように一緒に歩んでいくか。答えを見つけるためには、伴走者でありつつフラットな関係でいたい。自分の中のキーワードはオープン、フラット、ダイバーシティ。お互いにアイデアをぶつけ合いながら、スタートアップの世界観に寄り添っていくのが理想だ」(笹原氏)

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