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Sunday, December 3, 2023

住友生命がDX私塾を全社研修にバージョンアップ、デジタル人材 ... - ITpro

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 ChatGPTの登場から1年、生成AI(人工知能)は業務のあり方を変えようとしている。大手企業を中心にDX(デジタル変革)への取り組みも加速する。間違うべきでないのは、DXは「X(変革)」、つまりビジネスモデルや組織の変革を通じて、顧客や消費者に対して新たな価値を生み出すことだ。

 DXをけん引する人材の確保に動く大手企業の多くは、デジタル技術を身に付ける人材育成プログラムを2020年前後に開始した。3年ほどが経過し、こうしたプログラムを先手を切って実施・継続してきたユーザー企業を取材すると、「X」に照準を合わせた育成策によりシフトする姿が浮かび上がった。

 「D(デジタル)」に軸足を置いた人材育成がバージョン1.0だとすれば、バージョン2.0はこれまでに得た経験や知見を「X」にどう生かすのかが問われる。事例を基にデジタル人材育成2.0の勘所を探る。

 「まさに今は攻めのDX、つまり事業拡大、商品の価値拡大を真剣に考えるときだ。高度な企画力、ビジネス力が問われる。その力を付けるための人材育成が大事だ」。そう語るのは住友生命保険のデジタル共創オフィサーである岸和良エグゼクティブ・フェローだ。

「事業のど真ん中で変革を起こす」

 岸氏が独自に2019年から主宰してきたDX人材育成の取り組み「VitalityDX塾(DX塾)」から得た実感だ。デジタル技術を使い、新たなビジネス発想をしたり、既存事業に対する付加価値を高めたりするのに必要な知識がある。岸氏は、エンジニア向けにビジネス発想を身に付けるための研修を実践してきた。この取り組みが全社の研修「デジタル企画人財プログラム DXビジネス発想研修」の一部になった。

住友生命保険の研修風景

住友生命保険の研修風景

(写真提供:住友生命保険)

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 住友生命は健康商品・サービスへと商品ラインアップを拡充し、市場拡大を目指している。例えば美容や介護、資産運用といった分野だ。健康増進型保険「Vitality」から、同保険に付加していた健康プログラムを保険契約と切り離し、単独のサービス「Vitalityスマート」として2023年3月に提供を開始した。外部企業と連携することで得るデータを分析し、顧客への価値を高める計画だ。

 「計画が決まれば必要な知識・スキルは決まる」(岸氏)。「デジタル企画人材」を育成する全社研修の第1回は既に開催し、足りなかった知識やスキルを身に付ける教育を全社に広げていくステージに入った。

 全社研修は、2023年4月から始まった中期計画の推進エンジンとなる「デジタル&データ」活用を支えるもの。DX塾ではマインドセット(自己意識)を改革する意味を込めて「マインドセット研修」というワークショップ型研修を中心に実施してきた。この研修をエンジニア以外に拡充していく。

 デジタル企画人材として本社の各部門から20代後半~30代後半の若手を選抜し、全社研修の受講を2023年10月開始した。現在約60人が後続研修をビジネス企画やデータ分析、デジタルマーケティングをテーマに学んでいる最中だ。2024年3月までに100人程度の受講を見込む。管理職も2024年2月以降、受講を予定する。

 岸氏の右腕としてこの計画を支えるのが、DX塾でビジネス発想力を付けたエンジニアたちだ。現在10人ほどおり、全社研修の計画に講師として参加する。

 DX塾はこうしたエンジニア講師の育成機関として機能している。またDX塾は他社との協業コンセプトを形成する場でもある。岸氏は現在、薬局チェーンや飲料メーカー、調味料メーカーなどと打ち合わせを重ねている。

 生成AIの登場も人材育成を次のステージに押し上げる。岸氏は生成AIの出現に触れ「初めて自分の仕事がなくなると思った」といい、「これは千載一遇の機会。(社員が育成研修で習う)eラーニングやワークショップ、限定した実務だったのが今までだとすれば、新たな段階に入った。事業のど真ん中で新しい技術を使って変革を起こすのが、これから事業会社のやることだ」と強調する。

「人材育成の三角形」の真ん中を厚くする

 多くの企業が描くデジタル人材育成の枠組みは大きく3層から成る三角形だ。企業によって名称は異なるが、位置付けは第1層がエントリーレベルで、デジタル分野にほぼなじみのない社員や新卒社員だ。第2層が業務に必要な新たなデジタル技術を付けるべきである、事業を回している中核社員になる。第3層は先端ITを扱えるエンジニアや設計者、情報システム関連プロジェクトをマネジメントする高度なスキルを保有する人材だ。

 人材育成のバージョン2.0では、現場の知識が豊富な第2層にデジタル技術を実装する動きが活発になってきた。学んだ知識を現場に落とし込んで実践し、課題が生じれば解決しながらさらに実践するというPDCA(計画・実行・評価・改善)を回す。住友生命ではエンジニアにビジネス発想力を付け、第2層に当たる人材へと育成するPDCAを回してきた。今回、全社研修として運用することで、様々な部門にいる社員にデジタルの発想を付けることになる。

デジタル人材育成のイメージ。DX推進にはデジタルとビジネスが分かる人材を各事業領域で厚くする

デジタル人材育成のイメージ。DX推進にはデジタルとビジネスが分かる人材を各事業領域で厚くする

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 第2層は、職場でのDX推進者の役目も期待されている。富士通グループの研修会社、富士通ラーニングメディアの下には推進者の育成を依頼されることが増えている。金融サービスのデジタル化や店舗削減などの変化に強い危機感を抱いている銀行には、とりわけ熱心な受講者が多いという。富士通ラーニングメディアの青山昌裕社長は、「自社ビジネスだけでなく、顧客のビジネスも変革するとの意識がある」と分析する。

 同社が研修を提供したある銀行では、約500人の推進者育成を掲げていた。受講者はITの業務経験はなかったが、ネットワークやデータベースの研修を受講し、システム構成図や業務フロー、データフローまで考えて、ビジネス企画書に落とし込んできたという。

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